交通事故の被害者の方から治療を続けていく中で、このようなご質問をよくいただきます。
「いつも通っている整骨院で治療をしたいのですが、問題ないですか?」
「整骨院に通うことで慰謝料に影響はしますか?」
整骨院は、病院ではない為、しっかりと手順を踏んで治療を行わなければ、加害者側の保険会社に治療費や慰謝料等の損害賠償を請求するにあたって不利な状況に陥ってしまう可能性があります。
ここでは、交通事故で怪我を負ってしまった場合に、整骨院へ通院する際に注意するポイントや慰謝料の計算方法といった基礎知識についてご説明をさせていただきます。
目次
交通事故の原因による不調
むちうちなどの痛み
交通事故が原因で負傷された被害者の方は、「むちうち」を発症されていることが多くあります。
むちうちとは、交通事故の衝撃により、強い力が外部から不自然に頸部にかかり痛みが生じる、首の捻挫です。医師の診断書には「頚椎捻挫」や「外傷性頚部症候群」等と記載がされます。
むちうちは、首の痛みだけでなく、頭痛や不眠、疲れやすい、嘔吐感の他、長期に渡って痛みが継続することが多い怪我であるにもかかわらず、医師には「骨には異常なし」と言われることが多いということが特徴に挙げられます。
骨に異常がないとすると、神経を傷つけている可能性があります。この場合は、手先がしびれたり眩暈が生じたりすることもあります。
このような症状が出る中で、被害者の方の中には、「少しでも症状を軽くしたい」と考え、痛みを和らげるために整骨院や接骨院に通い、マッサージで痛みを和らげることをご希望されることは少なくありません。
整骨院という選択
整骨院や接骨院に通うとなった場合、被害者の方が注意しなければならない点があります。
整骨院は病院ではない
交通事故に遭った後、病院には通わず、整骨院のみに通う方がいらっしゃいます。
ここで被害者の方が前提として、知っておかなければならないことは、整骨院や接骨院は病院ではないということです。
整骨院で施術を行う先生は、柔道整復師という国家資格を有しています。
柔道整復師から受けられるのは、症状緩和の為のマッサージなどの施術のみであり、病院で受けることができる治療や検査は受けることはできません。
また、医師が発行する診断書も整骨院、接骨院では発行ができません。
人身事故として認定してもらうためには警察に診断書を提出しなければなりませんし、相手の保険会社に損害賠償金を請求する際も、診断書を提出することとなります。
事故に遭った際は、まずは必ず病院での診察は受けるようにしましょう。医師に診断書を作成してもらうことで、事故後の診断結果、検査結果を残すことは非常に大切です。
整骨院のみ通院しても治療費が支払われる場合もあるのか?
基本的に整骨院や接骨院に通院をする際には、病院や整形外科等の医師の判断に基づいた指示があることが必須です。
先ほども述べたように、整骨院や接骨院は病院ではありませんので、施術の必要性、有効性について、保険会社からは疑われやすく、場合によっては治療費である施術費用を全額認められないという可能性もありえます。
しかし、病院で行われる診察やリハビリだけが「治療」ではありません。整骨院や接骨院にて柔道整復師が行う施術についても、医師の指示や施術の必要性を証明できた場合においては、治療費の支払いを損害賠償の範囲として請求することが可能です。
最も良い方法は、医師に整骨院や接骨院での施術を認めるといったことを証明する「同意書」や担当医が他の医療機関へ患者を紹介するという「診療情報提供書」を発行してもらうことです。
こういった書面があると、整骨院や接骨院側への事情説明も滞りなく進めることができますし、何より、保険会社には「医師の指示のもと整骨院へ通院している」という必要性をわかりやすく示すことができます。
仮に書面を発行することができなくても、「医師の許可を得ること」が整骨院・接骨院へ通院するためには必要なこととなりますので、医師に相談はするようにいたしましょう。
整骨院・接骨院への通院に理解のある医師を選ぶことが非常に大切なポイントとなります。
医師の中には整骨院や接骨院への通院を認めてくれない方もいらっしゃいます。その場合は、認めてくれない理由を確認し、納得ができない理由であれば、転院も視野に入れることをおすすめいたします。
では、整骨院への通院について医師に相談をし、許可を得たから、病院には全く通わなくてもよいのでしょうか?
結論から申し上げると、病院への通院を止めてはなりません。
重ねて申し上げますが、整骨院や接骨院は病院ではありません。
そのため、病院に通院しない期間が空いてしまうと、相手の保険会社に通院の必要性の他、怪我と交通事故の因果関係に疑いをもたれてしまうこととなります。
整骨院が中心の治療となったとしても、最低でも1ヶ月に1度(30日以内)は病院へ通院することを忘れないよう、ご注意ください。
整骨院の治療は慰謝料の範疇
整骨院に通院した場合、病院や整形外科で受診した時と同じように、慰謝料は受け取ることはできるのでしょうか?
慰謝料として請求可能
まず、医師の指示を受けてから整骨院や接骨院を通院すれば、治療費の支払いを受けることは可能です。また、慰謝料についても請求することは可能なります。
慰謝料には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3種類があります。
整骨院や接骨院の通院にて発生する慰謝料は、怪我で入院や通院したことにより精神的苦痛に対して支払われる入通院慰謝料と、後遺障害が残り、後遺障害等級認定において、何らかの等級が認められた場合に支払われる後遺障害慰謝料が考えられます。この2つの計算方法等については、後述させていただきます。
被害者の方が、注意しなければならないのは、治療費が請求できない、整骨院や接骨院と似た医療機関があるということです。
これは、国家資格の必要が無い、整体院やカイロプラティックなどが挙げられます。
治療費が請求できないということは、当然慰謝料を請求することも難しいです。
整骨院や接骨院を選ぶ際は、こういった面も注意して選ぶ必要があります。
病院でも整骨院でも慰謝料の水準はほぼ同じ
では、病院や整形外科だけに通った場合と、整骨院や接骨院を併用して治療を行った場合では慰謝料は変わるのでしょうか?
結論から申し上げますと、医師の指示があって整骨院、接骨院に通院をすれば、病院、整形外科のみに通院した場合と同額の慰謝料が算出されます。
つまり、交通事故の怪我として治療を行うにあたり、通院が必要であると認められた場合、通院対象の医療機関によって、慰謝料の金額が変わるということはないということです。
ただし、整骨院・接骨院での施術行為が、交通事故の怪我に対する治療において不要であると判断されたケースでは、通院したとしても、慰謝料を算出するための通院期間に含まれないことがあります。
そういったケースの場合は、病院や整形外科のみに通院していた場合よりも慰謝料が低額となる可能性がありますので、ご注意ください。
ここからは、整骨院、接骨院に通院することで、被害者の方が請求することができる可能性のある慰謝料、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料についてご説明をいたします。
入通院慰謝料
慰謝料の算定基準には、自賠責基準、任意保険基準、裁判所基準(弁護士基準)という3つの算定基準があります。
基準 |
内容 |
自賠責基準 |
自動車損害賠償保障法で定められている、すべての自動車に契約を義務付けられた自動車損害賠償責任保険にて使用されている、最低限度の補償 |
任意保険基準 |
各任意保険会社が基準を定めており、自賠責基準と大きな差はない |
裁判所基準 |
過去の判例を基に算定された基準であり、3つの基準の内で最も高額となる |
入通院慰謝料は、通院の期間が長ければ長いほど高額になります。
先ほども述べましたように、整形外科と整骨院で算出内容が変わることは基本的にはありません。
各基準での計算方法は以下となります。
【自賠責基準】
自賠責基準では、入院、通院での慰謝料の差はなく、1日あたりを4,300円としており、以下の式で求めることができます。
4,300円×対象日数
対象日数は以下の2つの計算方法で求め、「少ない方」に日額の4,300円をかけることになります。
①実際の入院期間と通院をした実日数を合計し2倍
②初診から治療終了までの総治療期間
1ヶ月間に月10回の通院を3ヶ月(90日)続けた場合、①30日×2=60日、②90日となります。
つまり、自賠責基準では4,300円×60日=25万8000円が慰謝料として算出されます。
【任意保険基準】
任意保険基準は、各保険会社が独自で定めており、過去のデータや実績で算定していると考えられますが、明確な計算方法は非公開です。
以下でご説明をさせていただくのは、過去に任意保険会社が共通で使用しており、現在も使用されている可能性のある「旧任意保険基準」をご紹介します。
万円 (単位) |
入院 |
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
通院 |
25.2 |
50.4 |
75.6 |
95.8 |
113.4 |
128.5 |
|
1ヶ月 |
12.6 |
37.8 |
63 |
85.7 |
104.6 |
121 |
134.8 |
2ヶ月 |
25.2 |
50.4 |
73.1 |
94.5 |
112.2 |
127.3 |
141.1 |
3ヶ月 |
37.8 |
60.5 |
81.9 |
102.1 |
118.5 |
133.6 |
146.1 |
4ヶ月 |
47.9 |
69.3 |
89.5 |
108.4 |
124.8 |
138.6 |
151.1 |
5ヶ月 |
56.7 |
76.9 |
95.8 |
114.7 |
129.8 |
143.6 |
154.9 |
6ヶ月 |
64.3 |
83.2 |
102.1 |
119.7 |
134.8 |
147.4 |
157.4 |
7ヶ月 |
70.6 |
89.5 |
107.1 |
124.7 |
138.6 |
149.9 |
160 |
8ヶ月 |
76.9 |
94.5 |
112.1 |
128.5 |
141.1 |
152.5 |
162.5 |
旧任意保険基準や、この後ご説明させていただく裁判所基準は、通院した日数ではなく、【1か月を30日】と考え、初診から治療終了までの期間をベースに算出されます。
例えば、むちうち症状で、整形外科と整骨院へ通院した期間が、3ヶ月の場合、37万8000円が入通院慰謝料として保険会社より提示される可能性のある金額であるということです。
【裁判所基準】
裁判所基準では、2つの表を【被害者の方の怪我の程度】で使い分け、慰謝料を計算します。
むち打ち以外の怪我の場合の傷害部分の慰謝料基準表(損害賠償額算定基準:別表Ⅰ)
万円 (単位) |
入院 |
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
通院 |
53 |
101 |
145 |
184 |
217 |
244 |
|
1ヶ月 |
28 |
77 |
122 |
162 |
199 |
228 |
252 |
2ヶ月 |
52 |
98 |
139 |
177 |
210 |
236 |
260 |
3ヶ月 |
73 |
115 |
154 |
188 |
218 |
244 |
267 |
4ヶ月 |
90 |
130 |
165 |
196 |
226 |
251 |
273 |
5ヶ月 |
105 |
141 |
173 |
204 |
233 |
257 |
278 |
6ヶ月 |
116 |
149 |
181 |
211 |
239 |
262 |
282 |
7ヶ月 |
124 |
157 |
188 |
217 |
244 |
266 |
286 |
8ヶ月 |
132 |
164 |
194 |
222 |
248 |
270 |
290 |
むちうちなど他覚的所見がない場合に使用(損害賠償額算定基準:別表Ⅱ)
万円 (単位) |
入院 |
1ヶ月 |
2ヶ月 |
3ヶ月 |
4ヶ月 |
5ヶ月 |
6ヶ月 |
通院 |
35 |
66 |
92 |
116 |
135 |
152 |
|
1ヶ月 |
19 |
52 |
83 |
106 |
128 |
145 |
160 |
2ヶ月 |
36 |
69 |
97 |
118 |
138 |
153 |
166 |
3ヶ月 |
53 |
83 |
109 |
128 |
146 |
159 |
172 |
4ヶ月 |
67 |
95 |
119 |
136 |
152 |
165 |
176 |
5ヶ月 |
79 |
105 |
127 |
142 |
158 |
169 |
180 |
6ヶ月 |
89 |
113 |
133 |
148 |
162 |
173 |
182 |
7ヶ月 |
97 |
119 |
139 |
152 |
166 |
174 |
183 |
8ヶ月 |
103 |
125 |
143 |
156 |
168 |
175 |
184 |
では、先ほどの旧任意保険基準と同じく、むちうち症状で、整形外科と整骨院を併用して通院した期間が、3ヶ月の場合の被害者の方の場合です。
別表Ⅱを見ていただくと、該当部分は53万円となります。
このように比べていただくとわかるように、裁判所基準で計算をされた慰謝料が最も高額となります。
なお、整骨院に限らず、通院頻度は慰謝料を請求するうえで非常に大切です。
通院期間が6ヶ月であっても、通院日数が6回の方と60回の方が同じ金額であるということはほぼなく、通院頻度が少ないと慰謝料の減額事由になりえます。
また、通院頻度が少ない=治療の必要性がないと保険会社は考え、治療費の打ち切りを決める理由の一つになることもあります。
必要以上に通うことはありませんが、定期的に通うこと、通院の頻度については医師や柔道整復師の先生に相談するようにしましょう。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、後遺障害が残存してしまったことに対する精神的苦痛に支払われる慰謝料です。
注意しなければならないのは、後遺障害慰謝料は「後遺症が残ってしまった」というだけでは、基本的に支払われません。
後遺障害は1級~14級の等級に分かれており、等級認定申請を行い、いずれかの等級が認定された場合、等級に応じて後遺障害慰謝料は支払われることとなります。
【自賠責基準】
自賠責保険の慰謝料は下記の内容となります。
別表Ⅰ 後遺障害により介護が日常的に必要な場合の後遺障害に使用
後遺障害等級 |
金額 |
第1級 |
1,650万円 |
第2級 |
1,203万円 |
別表Ⅱ その他、日常的な介護が必要ない場合の後遺障害に使用
後遺障害等級 |
金額 |
第1級 |
1,150万円 |
第2級 |
998万円 |
第3級 |
861万円 |
第4級 |
737万円 |
第5級 |
618万円 |
第6級 |
512万円 |
第7級 |
419万円 |
第8級 |
331万円 |
第9級 |
249万円 |
第10級 |
190万円 |
第11級 |
136万円 |
第12級 |
94万円 |
第13級 |
57万円 |
第14級 |
32万円 |
【任意保険基準】
入通院慰謝料と同じく、旧任意保険基準をここではご紹介いたします。
後遺障害等級 |
旧任意保険基準 |
1級 |
1,300万円 |
2級 |
1,120万円 |
3級 |
950万円 |
4級 |
800万円 |
5級 |
700万円 |
6級 |
600万円 |
7級 |
500万円 |
8級 |
400万円 |
9級 |
300万円 |
10級 |
200万円 |
11級 |
150万円 |
12級 |
100万円 |
13級 |
60万円 |
14級 |
40万円 |
裁判所基準
裁判所基準では以下の通りで定められています。
後遺障害等級 |
赤本基準 |
1級 |
2,800万円 |
2級 |
2,370万円 |
3級 |
1,990万円 |
4級 |
1,670万円 |
5級 |
1,400万円 |
6級 |
1,180万円 |
7級 |
1,000万円 |
8級 |
830万円 |
9級 |
690万円 |
10級 |
550万円 |
11級 |
420万円 |
12級 |
290万円 |
13級 |
180万円 |
14級 |
110万円 |
例えば、被害者の方がむちうちとなり、整形外科と整骨院に通院し、後遺障害の等級認定を行い、後遺障害等級14級の等級が認められた場合は各基準での慰謝料の相場は以下となります。
自賠責基準…32万円
旧任意保険基準…40万円程度
裁判所基準…110万円
後遺障害慰謝料は入通院慰謝料以上に、算定基準によって大きく異なり、認定された等級が高いほど、明確に差が現れます。
後遺障害の可能性がある方、すでに等級確定しておりこれから示談交渉をする方は、必ず一度弁護士に相談をするようにしましょう。
整骨院の通院に関してお困りの方は、交通事故を多く取り扱う大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイにご相談ください。
整骨院・接骨院へ通院する際の注意点を中心にご説明をさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか?
被害者の方が、整骨院や接骨院の通院をしたいと思った時、相手の保険会社に伝えると、「認めることはできません。」「うちでは整骨院や接骨院の治療は対応していません。」と話を聞いてくれないことも、実は少なくありません。
その結果、整骨院の通院を諦めてしまう方もいらっしゃいます。
しかし、ここまでで述べてきたように、正しい手順を踏まえれば、整骨院、接骨院への治療費は相手の保険会社に支払ってもらえる可能性があり、また、慰謝料も請求することが可能です。
整骨院の利用についてご不安なことがあれば、交通事故問題を多く取り扱う大阪市・難波(なんば)・堺市の弁護士法人法律事務所ロイヤーズ・ハイに一度ご相談くださいませ。